日本の皮革技術を支えて70年NPO法人日本皮革技術協会監修
Leather Knowledge Project

用語集

Glossary of Leather Terms

本用語集は、革および皮革製造に関する基本概念を、
科学的・工程的・管理的観点から整理したものである。
本サイト各章で用いられる中核用語について、
定義の揺れが生じないよう簡潔に定義する。

本用語集は、JIS(日本産業規格)に整合する概念体系を基盤としつつ、
革を材料工学および管理工学の視点から
理解できるよう、本サイトの記述目的に合わせて再構成した。
したがって、規格用語の単純な転載ではなく、標準概念に準拠した整理である。

なお、より広範な専門用語については、(一社)日本皮革産業連合会が公開する
「皮革用語辞典」(日本皮革技術協会 編纂)を参照されたい。
同辞典は、皮革分野における網羅的な専門用語体系を提供している。

参照元リンク
▶ 皮革用語辞典(一般社団法人 日本皮革産業連合会)
https://dictionary.jlia.or.jp/

基本概念

  • 皮(Hide / Skin)

    動物の体表を覆う生体組織であり、主として真皮層に含まれるコラーゲン繊維から構成される材料。
    未処理の状態では高い含水率を持ち、腐敗や熱収縮に対して不安定である。
    一般大形動物の皮をHide、小形動物の皮をSkinと呼ぶ。
    関連:原料構造と副産物の位置づけ(基本概念)、皮革製造の科学(工程)、革の材料科学的特性(特性)

  • 革(Leather)

    皮をなめし処理によって化学的または物理化学的に安定化した材料。
    コラーゲン分子間に架橋を形成することで、腐敗および熱収縮に対する抵抗性が付与される。
    天然由来であるが、加工によって成立する材料である。
    (JIS K 6541:2024 に準拠)

  • 原皮(Raw Hide)

    と畜後、なめし工程に供される前の未加工の皮。
    塩蔵、乾燥、冷却などによって一時的に保存されるが、化学的安定化は施されていない。
    製革工程の出発材料である。
    (JIS概念に整合)

  • なめし(Tanning)

    皮に化学的または物理化学的処理を施し、腐敗および熱収縮(コラーゲンの熱変性)に対する抵抗性を付与する操作。
    主としてコラーゲン分子間に架橋を形成し、分子構造の自由度を制限することで材料を安定化させる。革を成立させる中核工程である。
    (JIS K 6541:2024 に準拠)

  • 製革(Leather Manufacturing)

    原皮をなめし処理し、必要に応じて再なめし、染色、加脂、乾燥、仕上げなどを行い、革へと加工する一連の工程。
    分子安定化、構造制御、表面機能付与を統合した材料変換プロセスである。

  • 副産物(By-product)

    主製品の生産工程において技術的・経済的に不可避的に発生する産出物。皮は食肉生産に伴う副産物であり、革はその有効利用形態の一つである。
    副産物であることは価値の低さを意味せず、資源循環の観点から重要な位置を占める。

  • 階層材料(Hierarchical Material)

    分子レベル、フィブリルレベル、繊維束レベル、マクロ構造レベルが相互作用し、階層間結合によって物性が発現する材料。
    革は分子架橋による安定化層、繊維ネットワークによる内部構造層、仕上げによる表面機能層から構成される階層材料である。

原料・構造

  • コラーゲン(Collagen)

    動物の結合組織に広く存在する構造タンパク質であり、皮の主成分を構成する。
    革の物性は主としてコラーゲン繊維の集合構造によって規定される。
    なめしは、このコラーゲン分子間に相互作用や架橋を形成し、構造を安定化させる操作である。
    (JIS概念に整合)

  • 三重らせん構造(Triple Helix)

    3本のポリペプチド鎖が撚り合わさって形成されるコラーゲン特有の分子構造。
    水素結合によって安定化されているが、未処理の状態では加熱や化学作用により容易に変性する。
    なめしはこの構造を間接的に安定化させる。

  • フィブリル(Fibril)

    コラーゲン分子が規則的に集合して形成する微細繊維構造。
    一定の周期構造(D周期)を持ち、さらに束状に集まって繊維束を形成する。
    革の強度および柔軟性は、フィブリルの配列と結合状態に依存する。

  • 繊維束(Fiber Bundle)

    多数のコラーゲンフィブリルが集合して形成される構造単位。
    繊維束同士が絡み合うことで三次元ネットワークを形成し、革の機械的特性を支える。
    再なめしや加脂は、この繊維束間の関係を調整する工程である。

  • 銀面(Grain)

    脱毛・石灰処理等により毛および表皮が除去された後に現れる真皮表面。
    真皮乳頭層の最外側であり、ここでは繊維束の形成が相対的に弱く、微細繊維が緻密に交絡している。革の外観や表面強度に大きく影響する。
    銀面の保存状態は製品品質を左右する重要な要素である。
    銀面を含む革の上層部分を銀(面)層といい、繊維が細かく緻密である一方、層厚や配向により、引裂・引張などの機械特性は多様である。
    (JIS概念に整合)

  • 床革(Split leather)

    皮を厚さ方向に2層以上に分割して得られる床層を原料として製造された革。
    銀面を含まない層であり、仕上げ設計により外観・物性は大きく異なる。
    捕捉:繊維構造は皮断面を通して多様であり、繊維は下層ほど太くなり、真皮の中心で最大に達する。その後その下の層に近くなるにつれて細くなる。
    繊維のネットワークは、繊維の分かれと他の繊維との絡み合いを成している。
    これにより機械的強度が増し、外力(応力)に対する抵抗性が高まる。
    (JIS概念に整合)

  • 空隙率(Porosity)

    材料内部に存在する空間の体積割合。
    革では繊維束間の空間が含まれ、空隙率は柔軟性、通気性、吸湿性などに影響する。
    空隙率は乾燥収縮および加脂設計の影響を受け、物性評価においては見掛け密度測定などにより推定される。

なめし・工程

  • 石灰漬け(Liming)

    原皮をアルカリ性条件下で処理し、毛や表皮成分の除去および繊維構造の膨潤を促す工程。
    コラーゲン繊維束間の距離を拡張し、後工程における薬剤の浸透性を高める役割を持つ。
    製革工程における前処理の中核である。
    (JIS概念に整合)

  • 脱灰(Deliming)

    石灰処理後のアルカリ性を中和し、pHを適正範囲へ調整する工程。
    繊維の過度な膨潤を抑制し、後続のなめし処理に適した反応環境を整える。
    酵素処理を伴う場合もある。

  • ピックリング(Pickling)

    酸および塩類を用いて皮を酸性条件下に調整する工程。
    なめし剤の均一な浸透と反応を可能にする前段階であり、特にクロムなめしにおいて必要な工程である。
    pH管理が精度を左右する。

  • なめし剤(Tanning Agent)

    皮のコラーゲンに作用し、分子間相互作用または架橋を形成する薬剤の総称。
    無機系、有機系、植物由来など多様な種類があり、最終物性に大きな影響を与える。

  • クロムなめし(Chrome Tanning)

    3価クロム塩を用いてコラーゲンと配位結合を形成し、安定化を図るなめし方法。
    高い熱安定性と柔軟性を得やすく、現在広く用いられている。
    適切な固定率管理と回収処理が求められる。

  • 植物タンニンなめし(Vegetable Tanning)

    植物由来のタンニン成分を用いてコラーゲンと多点相互作用を形成するなめし方法。
    比較的時間を要するが、剛性のある風合いや独特の経年変化を特徴とする。
    伝統的手法としても知られる。

  • 合成タンニン(Synthetic Tanning Agent)

    合成化学的に製造された有機化合物からなるなめし剤。
    クロムなめしや植物タンニンなめしと併用されることが多く、物性調整や充填効果を目的として使用される。

  • 再なめし(Retanning)

    一次なめし後に追加的な薬剤処理を行い、物性や充填性を調整する工程。
    内部構造の均一化や用途別特性の付与を目的とする。
    製品設計の自由度を高める重要工程である。

  • 染色(Dyeing)

    染料を用いて革に色を付与する工程。
    染料分子はコラーゲンと相互作用し、内部へ浸透・吸着する。
    外観形成だけでなく、紫外線応答や耐光性にも影響する。

  • 加脂(Fatliquoring)

    油脂や合成潤滑剤を繊維間に分散させ、柔軟性や耐屈曲性を付与する工程。
    繊維間摩擦を制御し、乾燥後の硬化を防ぐ役割を持つ。
    革の触感と耐久性を左右する重要操作である。

材料特性

  • 架橋(Crosslinking)

    コラーゲン分子間に形成される化学的または物理化学的結合。
    架橋は共有結合的架橋および配位結合、静電相互作用、水素結合など多様な相互作用形態を含む。架橋の形成により分子の自由度が制限され、熱収縮抵抗性や耐久性が向上する。
    なめしは架橋を導入する操作であり、その密度や分布が革の物性を規定する。

  • 液中熱収縮温度(Shrinkage Temperature)

    水中で加熱した際に革が急激に収縮を開始する温度。
    コラーゲンの熱安定性を示す指標であり、なめしによる安定化の程度を評価する代表的試験値である。一般に、架橋が進むほど収縮温度は上昇する。
    (JIS・IULTCS試験法に整合)

  • 弾性率(Elastic Modulus)

    材料が外力を受けた際の変形しにくさを示す物性値。
    革では繊維束構造、架橋密度、含水率などが弾性率に影響する。
    用途に応じて適切な剛性設計が求められる。

  • 耐屈曲性(Flex Resistance)

    繰り返し曲げ変形に対する耐性を示す特性。
    靴や鞄などの用途では重要な性能指標であり、加脂や仕上げ設計、内部構造の均一性が影響する。試験機による繰返し屈曲試験で評価される。

  • 染色堅ろう度(Color Fastness)

    染色された革の色が摩擦、光、汗、水などの作用に対してどの程度保持されるかを示す指標。
    用途や使用環境に応じた評価が行われ、染料選択や仕上げ設計と密接に関係する。
    (JIS・ISO試験法に整合)

  • 含水率(Moisture Content)

    材料中に含まれる水分の割合。
    革は吸湿性材料であり、含水率は柔軟性や弾性率、寸法安定性に影響する。
    環境条件によって変動するため、物性評価において考慮すべき要素である。

環境・管理

  • 固定率(Fixation Rate)

    なめし剤や染料などの薬剤が革内部に結合・吸着した割合を示す指標。
    固定率が高いほど未反応成分の排出が少なくなり、資源効率と環境負荷低減の双方に寄与する。
    工程設計および環境管理における重要な管理値である。

  • 回収率(Recovery Rate)

    工程中に使用された薬剤や水などを再利用可能な形で回収できた割合を示す指標。
    クロムなめしにおけるクロム回収などが代表例であり、資源循環および排出抑制の観点から重要である。

  • 排水(Effluent)

    製革工程から排出される処理水。
    薬剤残渣や有機物を含む場合があり、適切な処理を経て基準値以下に管理される。
    排水は工程の外部問題ではなく、管理対象として工程設計に組み込まれる。

  • BOD(Biochemical Oxygen Demand)

    生物化学的酸素要求量。
    水中の有機物が微生物により分解される際に消費される酸素量を示す指標であり、排水の有機汚濁度を評価するために用いられる。
    (JIS・環境基準に整合)

  • COD(Chemical Oxygen Demand)

    化学的酸素要求量。水中の有機物を化学的に酸化する際に必要な酸素量を示す指標であり、排水の汚濁度を評価するために用いられる。
    BODと併せて排水管理の基本指標となる。
    (JIS・環境基準に整合)

規格・評価

  • LCA(Life Cycle Assessment)

    製品や材料のライフサイクル全体にわたる環境影響を定量的に評価する手法。
    原料採取から製造、使用、廃棄に至るまでの各段階を対象とし、温室効果ガス排出量や資源消費などを分析する。
    革に関しては、畜産段階と製革工程の評価境界を明確に区別することが重要である。
    (ISO 14040 シリーズに整合)

  • JIS(Japanese Industrial Standards)

    日本産業規格。製品仕様、試験方法、用語定義などを定める国家規格体系であり、皮革分野では用語や物性試験方法が規定されている。
    品質の統一および取引の信頼性確保を目的とする。

  • ISO(International Organization for Standardization)

    国際標準化機構。
    製品、サービス、管理システムなどに関する国際規格を策定する機関であり、環境マネジメントや試験方法など皮革産業にも関連する規格を発行している。国際取引における共通基盤となる。

  • IULTCS(International Union of Leather Technologists and Chemists Societies)

    国際皮革技術者化学者連合。
    皮革に関する試験方法や技術基準の国際的整合を推進する団体であり、物性評価や分析法の標準化に寄与している。皮革分野の専門的試験体系の基盤を形成する。