Frequently Asked Questions about Leather
本章では、革をめぐる主な疑問を、
「材料」「畜産との関係」「環境評価」
「製造技術」「材料特性」の観点から整理する。
本章は、革に関する代表的な問いを、
材料科学・環境評価・工程管理の観点から整理するものである。
革に関する議論は、倫理的印象や環境イメージと結びつきやすいが、
評価結果は前提条件、環境負荷の配分方法、
工程設計などによって大きく変化する。
ここでは、個別の是非を断定するのではなく、
議論を成立させるための評価構造を提示する。
本章の回答は、材料科学、皮革製造技術、環境評価研究などの
既存知見に基づき整理したものである。
( List of questions )
革とは、動物皮の主成分であるコラーゲン繊維集合体を、なめし工程によって化学的・物理的に安定化させた多孔質構造材料である。
生皮は熱収縮温度が低く、微生物分解を受けやすいが、なめしにより分子間架橋が導入され、三次元繊維ネットワークの安定性が向上する。
革は天然由来材料であるが、その材料特性は製造工程の設計によって決定される。
詳しくは:「 皮革製造の科学 」を参照
皮は生体組織であり、酵素分解・熱変性を受けやすいタンパク質材料である。
革は、そのコラーゲン繊維構造を化学的に固定化した工業材料である。
両者の差は、生体状態か、安定化処理を受けた材料状態かという点にある。
詳しくは:「 皮革製造の科学 」を参照
革は天然高分子(コラーゲン)を基盤とするが、なめし・再なめし・染色・加脂・仕上げ工程を通じて機能設計された材料である。
したがって、天然由来高分子を基盤とする設計材料と定義するのが適切である。
詳しくは:「 革の材料科学的特性 」を参照
商業的畜産の主目的は食肉・乳製品生産である。
皮はその過程で必然的に発生する副産物である。
環境評価上重要なのは、「副産物であるかどうか」ではなく、畜産段階の環境負荷をどのように配分するかである。
詳しくは:「 原料構造と副産物の位置づけ 」を参照
これはLCA(Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)の配分方法によって異なる。
代表的手法:
• 物量配分(mass allocation)
• 経済価値配分(economic allocation)
• システム拡張(system expansion)
配分方法の選択により、革の算定結果は大きく変化する。したがって、数値比較には前提の明示が不可欠である。
詳しくは:「 革と環境の評価構造 」を参照
単純比較は成立しない。
評価は以下を含む必要がある:
• 原料段階(畜産)
• なめし工程
• エネルギー使用
• 使用期間
• 廃棄処理
革は耐久性が高く長期使用を前提とするため、機能単位(functional unit)設定が評価結果を左右する。
詳しくは:「 革と環境の評価構造 」を参照
合成皮革は主に石油由来ポリマー(PU・PVC等)を基盤とする。
革は副産物由来タンパク質材料である。
比較には以下が必要である:
• 機能単位の統一(耐用年数)
• 廃棄シナリオ設定
• マイクロプラスチック評価
• カーボンフットプリント算定前提
評価結果は前提依存である。
詳しくは:「 革と環境の評価構造 」を参照
革はタンパク質基盤材料であり、合成高分子材料とは分解挙動が異なる。
なめし処理により安定化されているため急速な分解は生じにくいが、処理方法により環境影響は異なる。
廃棄処理の選択肢は以下のとおりである。
• 焼却(エネルギー回収含む)
• 埋立て
• 再資源化
特に窒素含有有機物としての燃焼挙動やなめし種別による差異を考慮する必要がある。
詳しくは:「 革と環境の評価構造 」を参照
現在主流のクロムなめしでは3価クロム(Cr(III))が使用される。Cr(III)はコラーゲンのカルボキシル基と配位結合を形成し、繊維構造を安定化させる。
6価クロム(Cr(VI))は強酸化条件、高温、紫外線、乾燥など不適切な保管条件下で生成する場合がある。現在では、6価クロムに変換しないような製造法が広がっており、工程管理・湿度管理・規格試験によって管理される。
本質的論点は物質の存在ではなく、管理体制の適正性である。
詳しくは:「 皮革製造の科学 」を参照
適正製造管理下で生産された製品には含まれない。
国際規格・EU規制(REACH Annex XVII 等)に基づき試験管理が行われる。
安全性は規格と試験体制によって担保される。
詳しくは:「 皮革製造の科学 」を参照
クロムなめしは金属配位架橋を基盤とする。
植物タンニンなめしはポリフェノールとコラーゲンとの多点相互作用を基盤とする。
結果として、
• 収縮温度
• 剛性
• 吸湿挙動
• 経年変化特性
が異なる。
詳しくは:「 皮革製造の科学 」を参照
液中で加熱したときに急激な収縮が始まる温度を指し、JISでは「液中熱収縮温度」という。
コラーゲンの熱安定性指標であり、なめし度評価の代表的物性値である。
収縮温度の上昇は分子間安定化の進行を示す。
詳しくは:「 革の材料科学的特性 」を参照
三次元的に絡み合ったコラーゲン繊維ネットワークが応力を分散するためである。
加脂設計および再なめし設計により柔軟性と強度の両立が図られる。
耐久性は材料構造と工程設計の結果である。
詳しくは:「 革の材料科学的特性 」を参照
経年変化は酸化、光反応、油脂移動等による物理化学的変化である。
機能低下を伴う不可逆劣化とは区別される。
設計思想によっては経年変化が価値特性となる。
詳しくは:「 革の材料科学的特性 」を参照
革は吸湿性を有する多孔質材料であり、乾燥や汚染により繊維間摩擦が増加する。
適切な保湿・清掃は繊維間潤滑性を維持し、力学特性の安定を保つ。
手入れは材料管理行為である。
詳しくは:「 革の材料科学的特性 」を参照
革の主成分はコラーゲンという天然タンパク質であるため、理論的には微生物による分解が可能である。しかし、革はなめし工程によって化学的に安定化されているため、生皮のように容易には分解しない。
分解挙動は以下の要因に依存する。
・なめし方法(クロムなめし、植物タンニンなめしなど)
・環境条件(温度、湿度、微生物環境)
・廃棄処理方法
そのため、革は天然由来材料であるが、生分解性材料として設計されたものではない。
革の環境評価では、生分解性そのものよりも
• 長期使用による資源効率
• 製品寿命
• 廃棄処理方法
などを含めたライフサイクル全体で評価することが重要となる。